ドッグフード

『カルシウムの過剰摂取は百害あって一利なし』子犬編

 

初めて子犬を迎えると、そのあまりの成長ぶりに驚かされることがあります。

子犬はおよそ1年という、かなり短い期間で成犬サイズにまで成長する生き物。人間の子どもの成長速度とは比べものになりません。

まさに、ぐんぐん成長していく、という表現がぴったりなんですよね。

特に大型犬の子犬の成長ぶりは驚異的。

生後2ヶ月で手もとにやって来たとしたら、その時点では4kgぐらいしかなかったはずの子犬が、2ヶ月もたたないうちに倍の8kgまで成長していることも珍しくありません。

そして生後6ヶ月ともなれば、すでに20kg近くにまで成長していることも。この頃は、体格は成犬並みに大きいのにやることはまだまだ子犬という、飼い主さんが体力的に一番振り回される時期でもあります。

さて、そんな猛スピードで日々大きくなっていく子犬を目の当たりにすると、飼い主さんが犯しやすい間違いあります。

それは、ドッグフードにカルシウムのサプリメントを追加してしまうことです。

■カルシウムを過剰摂取するとどうなるの?

子犬の健やかな成長を願えばこそ、骨の健康のためにカルシウムをたくさん摂らせてあげたい。この発想は、まさに親心ですよね。

しかし、残念ながら子犬にカルシウムを過剰摂取させたところで、強い骨を作ることはできません。それどころか、発育障害を引き起こす原因になる可能性が高いのです。

しかも、恐ろしいのはそれだけではありません。成長期の子犬にカルシウムを過剰摂取させてしまうと、神経系の機能低下を引き起こす可能性がありますし、免疫機能の低下まで招いてしまう恐れもあるのです。

カルシウム=たくさん摂取すれば骨に良さそう!というイメージは、私たちの中に根強く定着しています。

それなのに、なぜそんな恐ろしい事態を引き起こす可能性があるのでしょうか。

子犬用のドッグフードには既に充分な量のカルシウムが含まれている

たとえば、飼い犬には残飯を食べさせるのが普通だった時代であれば、子犬の食事にカルシウムのサプリメントを加えることは、とても有効なはずです。

しかし、現代のドッグフードの栄養バランスをなめてはいけません。

きちんとした品質のドッグフードを食べさせている限り、そのドッグフードに含まれている栄養成分だけでバランスは整っているのです。

そして子犬用のドッグフード――「幼犬用」「成長期の子犬用」「グロース」といったラインナップには、子犬が成長していくうえで必要な栄養素が正しい栄養バランスで配合されています。

その中にはもちろんカルシウムも含まれていて、その量で充分に事足りるように栄養バランスが設計されているのです。

そこにカルシウムのサプリメントをわざわざ追加する必要はありません。

特にサプリメントは食材から栄養を吸収するのとは違い、栄養成分を凝縮し、さらには体内に吸収されやすいような処理が施されています。

その結果、過剰摂取を起こしやすくなってしまうのです。

カルシウムの過剰摂取が、なぜ成長障害や体調不良の原因になるのか

いかにも骨の健康に良さそうなイメージのあるカルシウムが、なぜ過剰に摂取すると発育不良の原因になるのでしょうか。

それは、あるホルモンの作用が関与してくるからです。

カルシウムを過剰摂取した子犬の体内では、血液中のカルシウム濃度が上昇します。すると、カルシウムの濃度を正常値にまで下げようと、カルシトニンというホルモンが分泌されることに。

このカルシトニンの作用は一時的なものであれば問題ありませんが、毎食のドッグフードにカルシウムのサプリメントを足してしまうと、血液中のカルシウム濃度は常に上昇した状態になります。

その結果、必然的にカルシトニンもずっと分泌されることに。

そして、このカルシトニンが過剰に分泌されることで、多くの問題を引きこしてしまうのです。

なぜなら、カルシトニンには骨や軟骨の成長を抑制する働きがあるからです。つまり、カルシウムを過剰摂取すると発育不良を起こすのは、カルシトニンが過剰に働きすぎてしまった結果、骨の成長を抑制してしまうからなんですね。

そしてカルシトニンは甲状腺で作られているホルモンですから、過剰な分泌が続けば甲状腺そのものも疲弊します。

これが免疫機能の低下をまねいてしまう原因になるわけです。

また、骨のことばかりがクローズアップされがちなカルシウムですが、実は神経伝達のためには欠かせないミネラル。

だからこそ過剰摂取してしまうと神経系の働きに影響を与えてしまい、鉄や亜鉛、リンといった必須ミネラルの吸収まで低下させてしまうのです。

■母犬にカルシウムを過剰摂取させると胎児に影響がでる

愛犬が妊娠すると、飼い主は生まれてくる子犬の健康を考えて、母犬のドッグフードにカルシウムのサプリメンとを追加することがあります。

まさしく親心ならぬ祖父母心からの行動ですが、残念ながら母犬がカルシウムを過剰摂取すると、胎児に悪影響を及ぼす可能性があります。

母犬の胎内にいる時点でカルシウムを過剰摂取した子犬は、成長した後に胃捻転や急性意拡張のリスクが高まる傾向にあります。

胃捻転は症状が表れた直後に病院へ連れていっても、2割から3割は死に至る恐ろしい病気。発見が遅れてしまえば、ほぼ5割の犬が助かりません。

骨の強い子に生まれてきてほしいという飼い主の願いが、将来的に胃捻転などのリスクを高めてしまうなんて、なんとも皮肉な話しですよね。

また、胃捻転を起こしやすくなるリスクは、胎児の頃にカルシウムを過剰摂取した場合にとどまりません。

成長期にカルシウムを過剰摂取し続けた子犬も、発症のリスクが高まります。
いずれにしても、カルシウムの過剰摂取は年代を問わず推奨できるものではありません。

栄養はバランスよく摂取することが基本

骨を丈夫にしたいからと、せっせと必要以上のカルシウムを与えることは、犬の体を健康にはしてくれません。むしろ、病気の原因を作り出してしまう行為です。

カルシウムの過剰摂取が原因で発育障害を起こしてしまったら、体をもとに戻すことはできません。

とはいえ、カルシウムは犬の体にとって絶対に欠かすことのできない大切なミネラルの一つ。カルシウムそのものが悪いわけではなく、過剰摂取がダメなのです。

栄養は、どれか一つだけを突出して摂取すればいいわけではありません。総合的な栄養バランスが整っていてこそ、すべての栄養は力を発揮してくれるのです。